日本を含む欧米各国の国際研究チームは、NASA、 ESA、 CSAにより打ち上げられたJames Webb Space Telescope (JWST)の観測から、オリオン星雲にある惑星系の形成が進行中の天体 d203-506 に、メチルカチオン(CH3+)と呼ばれる陽イオンの分子を初めて発見しました。CH3+は広い範囲の分子とよく反応するという特徴を持っています。このため、1970年代から生命体の形成につながる複雑な有機分子の生成過程の鍵となる分子と考えられてきました。
しかしCH3+は多くの分子の検出に貢献してきた電波領域に特徴的な遷移線を持たないため、検出には赤外線での精度の高い観測が必要で、これまで宇宙空間で発見されていませんでした。今回JWSTが持つ赤外線の高い検出能力により、CH3+と考えられる信号が見つかり、理論家と分子分光学の専門家の協力によりその検出を確実にしました。
今回の発見は、量子化学、分子物理学、分子分光学、そして天体物理学の見事な共同作業の結果もたらされたものです。今回のCH3+が発見された天体d203-506はオリオン星雲の中でも紫外線が強い領域にあり、CH3+の生成には紫外線が重要な役割を果たしていることが想像されます。このような環境は我々の太陽系生成の初期段階にも当てはまると考えられます。
本研究チームには、天文学専攻名誉教授の尾中敬が加わっています。詳細は、理学系研究科および欧州宇宙機関(European Space Agency: ESA)のページをご覧ください。
図:(左) JWST搭載の近赤外線カメラ (NIRCam) によるオリオン星雲の近赤外線画像。(右上) JWST 搭載の中間赤外線装置 (MIRI) による観測天体 d203-506の周囲の中間赤外線画像。 (右下) NIRCam と MIRI のd203-506 の拡大図。(クレジット:ESA/Webb, NASA, CSA, M. Zamani (ESA/Webb), the PDRs4All ERS Team)