本郷研究グループ紹介―戸谷友則(教授)

last-update:2017/08/28

  戸谷友則研究室

戸谷研究室では、主に宇宙論、銀河進化、高エネルギー宇宙物理学などの分野で、観測と密接に連携しながら理論研究を進めています。以下に研究内容を紹介します。

メンバー(2017年度)

  • 教授: 戸谷 友則
  • 博士1年: 山崎 翔太郎 (高エネルギー天体現象・ガンマ線天文学)
  • 修士2年: 須藤 貴弘 (宇宙論・高エネルギー宇宙線)
  • 修士1年: Lin Haoxiang James (高エネルギー天体現象・プラズマ物理学)

  研究テーマ

宇宙論

 宇宙論とは、宇宙そのものの性質を探る研究分野です。宇宙がどのように生まれたか、初期のわずかな密度揺らぎから現在の宇宙の豊かな構造(大規模構造)がどのようにできたか、現在の宇宙はどのような物質で構成されるのか、などを様々な観測データを駆使しながら探っています。

 遠方の銀河・銀河団や超新星の観測、あるいは宇宙マイクロ波背景放射の観測などから、宇宙モデルの様々なパラメータを決定することができます。近年の精密観測データにより、宇宙のモデルや、宇宙の物質構成がよく決まってきました。その結果、重力だけでその存在が知られる暗黒物質と、宇宙膨張を加速させる暗黒エネルギーという、謎の二つの成分が宇宙の成分として支配的であることがわかってきました。これらの起源が、現代宇宙論における最大の謎となっています。

 我々の研究室ではこれまで、銀河や超新星を用いた宇宙モデルの決定や、ガンマ線天体観測による暗黒物質の探索などのテーマを研究してきました。最近のプロジェクトとしては、2012年から2014年にかけ、すばる望遠鏡を用いて史上最遠方の銀河立体地図を作る、FastSoundプロジェクトを行いました。下の図は、我々の観測データの一部から作られた、宇宙誕生後47億年の頃の宇宙の立体地図です。これほど昔の宇宙の三次元構造を明らかにしたのは本プロジェクトが初めてです。このデータから、銀河が大規模構造を作っていく運動の様子を精密に測ることができます。それを用いると、宇宙論スケールでの重力が一般相対性理論で正しく記述できるのか、暗黒エネルギーの正体は何なのか、などといった重要な問題に迫ることができます。FastSound の結果、データの誤差の範囲で、標準宇宙モデルが仮定する一般相対性理論と宇宙定数で矛盾がないことがわかりました。

FastSoundプロジェクトで作成された、宇宙誕生後47年頃の宇宙三次元地図。一つ一つの点が銀河です。左右の差渡しがおよそ数十億光年あります。形成が進む宇宙大規模構造が見えています。

銀河の形成と進化

 宇宙に存在する様々な形態や大きさの銀河は、暗黒物質の重力で成長する宇宙大規模構造の中で、ガスが冷却し、星が生まれることでできてきたと考えられています。ハッブルやすばる望遠鏡などの活躍で、100億光年以上遠方にある、誕生直後の若い銀河が見えてくるようになりました。我々の研究室では、銀河形成の理論モデルを最新観測データと比較して銀河形成の物理に迫ったり、様々な天体現象の宇宙進化を銀河形成進化の観点から理解するといった研究を行ってきました。

 例えば、すばる望遠鏡が見つけた最遠方の銀河種族であるライマンα輝線銀河の理論モデルを構築し、すばるのデータと比較してその物理的な性質を調べたりしました。また、宇宙にあるすべての銀河からの総和は宇宙背景放射として観測されますが、すばるディープフィールドの銀河データを調べ、背景放射の何割が実際に銀河として検出できているかを見積もりました。こうした研究から、銀河形成理論が妥当なものであるかを検証することができます。

すばるディープフィールド。近赤外線で見た深宇宙の姿で、2001年の発表当時、世界最高感度を誇った。当研究室は、このデータを理論モデルと比較して科学成果を引き出す役割を果たしました。

高エネルギー天体物理学

 太陽より10倍以上重い星は最後に超新星爆発を起こし、中性子星やブラックホールを残します。その際、ガンマ線バーストと呼ばれる強力なガンマ線放射を伴うこともあります。ブラックホールには超新星で作られる恒星質量ブラックホールの他に、銀河の中心にある太陽の百万倍以上という超巨大ブラックホールもあり、ガスが降着することで活動銀河中心核(AGN)と呼ばれる現象を引き起こします。こうしたコンパクトで高密度な天体は、高エネルギー粒子の源となり、それらはX線、ガンマ線や電波などで観測されています。また、地球に降り注ぐ高エネルギーの宇宙線の源もこうした天体が有力候補とされていますが、どの天体が本当の起源なのか、まだ多くの謎が残されています。

 当研究室では、超新星やガンマ線バーストの発生機構、AGNの放射機構や宇宙論的な進化、宇宙線の起源などについて研究を行ってきました。特に、ガンマ線バーストは大変明るいので遠方つまり初期の宇宙からでも観測できます。それゆえ、ガンマ線バーストを使って宇宙再電離などの初期宇宙現象を探るといった研究もできます。そうした、高エネルギー天体現象そのものの謎だけでなく、これらを使った宇宙論的な研究にもウエイトを置いてきたのが特徴です。

 最近では、高速電波バーストと呼ばれる、わずか数ミリ秒しか続かない謎の電波の突発天体現象の研究を進めています。その母天体は何かを理論的に研究する一方、すばる望遠鏡を使って高速電波バーストの追観測を行うなど、理論・観測の両面から研究を展開しています。また、宇宙線に加えて、1015 eV を超える高エネルギーの宇宙起源ニュートリノが最近の新たな謎として注目を集めていますが、その起源に迫る理論研究も進めています。

継続時間の長い(約2秒以上)ガンマ線バーストの想像図。継続時間の短いものは、これとは別種族で、連星中性子星の合体が有力視されている。