インタビュー記事(3) 木村智幸さん

last-update:2017/06/05

  木村智幸さん

理学系研究科天文学教室 尾中研究室 修士1年(2017年3月 取材当時)

研究分野について教えてください。

 僕の研究対象は星と星の間にある「星間物質」です。nm~µmサイズの分子や微粒子(ダスト)は、若い星の周囲などに多く漂っていて、赤外線の波長域で特徴的な光の吸収や放射のピークをみせます。僕たちは、望遠鏡で宇宙からの赤外線を詳しく観測することで、そこに存在する星間物質の特性を調べています。今調べているのは、すばる望遠鏡で見た星形成領域(若い星が密集して生まれている領域)です。以前やっていた研究では、生まれたての若い星の周りを覆っていて、惑星のもととなる、水や二酸化炭素、有機物の「氷」を調べていました。銀河や系外惑星などと比べてあまり人が多くない分野なので、あえて飛び込んでみようと思い、やってみました。それから、研究室の持っている、宇宙のダストを再現した物質を地上で合成できるプラズマ発生装置を見せてもらって、すごいなあと感じたのも志望した理由です。
 天文学には小さいころから興味がありました。ロケットの展示してある科学館などに行っていて。大学に入ってからも、他にもっと面白いと思うものは見つからなかったので。せっかくなら、天文学の世界のトップの人たちと出会い、もっと深く知りたい、という知的好奇心で天文学を選びました。

研究生活の一日はどういったスケジュールですか。

 平均して、10時頃に大学に来ています。どの研究室にもコアタイムはないので、個人の生活に合わせて研究できるのでいいですね。午前中は、論文をチェックしたり、天文のニュースを見たりしています。午後は、修士一年は授業が結構あります。週4,5コマ取ると、修士2年では余裕がある、という感じです。天文学の授業に限らず、様々な授業をとれるので、僕は生物学の授業なども履修していました。地球でどうやって生命が生まれたのかに興味があったので、古生物学の授業とか、面白かったですね。
 ゼミは週に1回、1時間くらいあって、研究室のメンバーで、研究の進捗報告や、論文紹介をしあっています。その後先生と個別にミーティングがあります。夜は、大抵8時、9時頃には帰っています。帰るのが面倒になって泊まることもありますけど(笑)。僕は今でもサークル活動に参加していて、朝練のために駒場キャンパスへ行ったりもしています。 

天文学の魅力は何ですか。

 わかる距離と時間のスケールが、地球上のこととは比べ物にならないくらい大きいということです。それが、たかだか直径数メートルの望遠鏡でわかる、というのが、怖いくらいにすごいと思います。1万メートルの深海のことすらよくわからないのに、百何十億光年の宇宙のことは見ることができる。それだけでわくわくします。

研究生活で楽しいこと、辛いことは何ですか。

 実際の天文学の観測って、きれいな画像のイメージとは違って、はじめに得られるデータはノイズだらけなんです。ノイズだらけの画像を地道に処理してやっと信号が見つかる、そこまでの作業が大変ですが、そこから結果が得られるとうれしいですね。あとは、「天文学をやっています」と言うと、結構話のネタになって、楽しいです。みんな宇宙には興味をもっていると思うので。就活をしていても、それをすごく感じます。
 つらいこととしては、天文学は世界中の研究者が相手なので、英語が使えないと話にならない、というところでしょうか。僕の研究室は外国人の方もいるので、学部4年生の時からミーティングが英語で、初めはすごく戸惑いました。けれどそのことで、4年生の時から、世界中の研究者と同じ立場に立っていることを実感しました。初めての学会の発表も外国人だらけで、いきなり英語で20分くらい発表して、もちろん質疑応答も英語で、すごく大変でしたが、どうにか乗り切って、成長につながったと思います。自分をアピールすれば、世界中の尊敬すべき研究者と交流できる、というのは魅力ですね。
 あと、研究室にいるのは、1学年最大1名なので、人が少なく、同期や先輩、後輩がいないことがあるのが寂しいですね。ちょっとした質問があるときとか、自分で頑張らないといけなかったりするので・・・。ただ、逆に、教授や助教との1対1の時間が多いです。やる気次第で、成長できると思います。

今後、どういった道へ進むつもりか教えてください 。

 コンサルティング業界や、データ分析、IT関係の就職を考えています。僕は学部の時から、研究者になろう、というビジョンを描いていたわけではなく、就職する方向で考えていました。天文学科に入って就職なんてできるのか、と思われるかもしれないけれど、そんなことはないです。天文学の、自分自身で考えないといけない環境、世界中の人とディスカッションして研究する環境は、社会に出る時に十分使えるスキルにつながっていると思います。装置を作っていた人ならメーカーに就職しやすいし、解析やシミュレーションなどやっていた人はコンピューターや情報系の仕事ができるし。面接などでも、天文学をやっている、って言うと印象良いみたいですね。
 でもやっぱり、周りに就活するメンバーは少ないので、就活の情報を得るのは自力でやらなければいけなくて、少し大変ではあります。

最後に何かメッセージがあれば。

 天文学科の先生方はすごく優しく、自分のやりたいことを伝えると、受け入れてくれる寛容な人が多いです。少人数だからこそ、やる気があれば伸びていく環境があるので、ぜひ積極的に取り組んでほしいです。


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